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東京地方裁判所 昭和47年(ワ)6049号 判決 1973年3月28日

原告

畠山惇一

右訴訟代理人

関根俊太郎

外一名

被告

不二サツシ販売株式会社

右代表者

秋田新三

右訴訟代理人

江橋英五郎

外一名

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(一)  債権者を原告および被告、債務者を株式会社ニューフロンティアとする東京地方裁判所昭和四七年(リ)第一二七号債権配当事件につき作成された配当表中被告に対する配当額を取消し、右金額七八万四〇七五円を原告に配当する。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

(一)  債権者を原告および被告、債務者を株式会社ニューフロンティアとする東京地方裁判所昭和四七年(リ)第一二七号配当事件(以下本件配当事件という)について左記の配当表が作成された。

配当にあてるべき金額

金一、五七万八〇〇円

執行費用 金二六五〇円

執行費用を除き配当にあてるべき金額

金一、五六万八一五〇円

請求金額      配当額

原告の請求金額

金一五七万八〇〇円

原告への配当額

金七八万四〇七五円

被告の請求金額

金一五七万八〇〇円

被告への配当額

金七八万四〇七五円

(二)  昭和四七年七月一〇日の配当期日に配当表について異議を述べた。

(三)  異議の理由は次のとおりである。

1 本件配当事件において配当されるべきものとされた金額は株式会社ニューフロンティアが東海興業株式会社に対して有していた次の各約束手形の金額である。

(1) 金額一七万八〇〇円、振出日昭和四六年一月一一日、満期同年六月二〇日、支払地振出地東京都千代田区振出人東海興業株式会社、受取人株式会社ニューフロンティア

(2) 金額四〇万円、振出日同年三月一〇日、その他の要件(1)と同じ、

(3) 金額五〇万円、振出日同年四月一〇日、満期同年七月二〇日、その他の要件(1)と同じ、

(4) 金額五〇万円、振出日同年五月一〇日、満期同年九月二〇日、その他の要件(1)と同じ。

2 原告は東京法務局所属公証人伊東勝作成昭和四六年第一三一四号金銭消費貸借契約公正証書の執行力ある正本にもとづき債務者を株式会社ニューフロンティア第三債務者を東海興業株式会社として、右の手形債権につき当庁に差押ならびに転付命令を申請して差押、転付命令をえ(当庁昭和四七年(ル)第六九六号)、右命令は昭和四七年二月二六日東海興業株式会社に送達された。

3(1) 被告は株式会社ニューフロンティアに対する当庁昭和四六年(ワ)第七〇七六六号事件の勝訴の確定判決を有する(請求原因となつた債権の内容は、(1)金額二七万円、振出日昭和四六年六月二八日、満期同年一〇月二〇日、支払地振出地東京都新宿区、振出人株式会社ニューフロンティア、受取人被告、(ⅱ)金額八九万八、〇〇〇円、その他の要件は(ⅰ)と同じ、(ⅲ)金額五二万九、〇〇〇円、振出日昭和四六年七月二四日、満期同年一一月二〇日、その他の要件は(ⅰ)と同じの各約束手形債権である。)者として配当要求債権者とされたのであろうが、被告の右勝訴判決は原告が転付命令を受けた後になされたものであるから、被告は配当要求をなしえないものである。

(2) 仮りに、被告が右判決記載の債権を被保全権利として、原告の執行申立前に債権仮差押を得ていたことを根拠として配当要求の効力を認められたものであるとしても、右仮差押は次の理由で無効であるから、結局配当要求の効力を生じない。すなわち、

(イ) 被告は、昭和四六年一一月一五日、株式会社にニューフロンティアを債務者、東海興業株式会社を第三債務者として前記(三)、1(1)(2)(3)(4)の各手形債権を目的とする債権仮差押決定をえ、右決定正本は同一一月一六日東海興業株式会社に送達された。

(ロ) 然し、株式会社ニューフロンティアは、当時右各手形を喪失したとして昭和四六年東京簡易裁判所に公示催告の申立をなしていた(同四七年二月一〇日除権判決を受けた)ので、(イ)の仮差押の執行として執行官が右各手形の占有を取得することはできなかつた。したがつて、手形債権の仮差押執行の効力は生じないというべきである。

(四)  以上のとおりであつて、被告は配当要求債権者ではないのに、執行裁判所が(一)のとおり配当表を作成し、被告に配当すべきものとしたのは違法不当であるから請求の趣旨記載の裁判を求める。

二  請求原因に対する認否

(一)  請求原因中事実関係の主張は全部認める。

(二)  被告の仮差押申請は、公示催告の申立が却下されることを解除条件とするものであり、その差押債権は、除権判決によつて債務者たる株式会社ニューフロンティアが手形を所持しないで第三債務者たる東海興業株式会社に対して行使できる手形債権である。その仮差押の執行は仮差押決定正本を債務者と第三債務者に送達することによつて効力を生じ執行官による手形の占有を要しないものである。

したがつて、被告の仮差押執行は有効であり、これにより当然後になされる強制執行につき配当要求の効力を有するというべきである。

第三  証拠<省略>

理由

原告の請求原因の要旨は、被告は原告の申し立てた強制執行につき配当要求債権者ではないのに、執行裁判所が被告を配当要求債権者と認めて配当手続に加えて配当表を作成したのは違法である、というにある。

しかしながら、配当に関する異議の訴は、配当に与かるべき債権者間において、配当要求の基礎となる債権の実体法上の存否を争うために設けられた訴の制度であつて、原告が主張するように、被告の債権の実体法上の不存在を配当異議の訴の理由とすることなく、執行裁判所が配当要求の効力を認めて被告を配当要求債権者として取り扱つたことの執行手続上の違法性を配当異議の訴の理由とすることはできないというべきである。もつとも、配当要求債権者とされた者の執行法上の差押の効力(本件についていえば、被告の仮差押執行の効力)を争うことも、配当異議の訴の理由とすることができる、との見解もあるが、わが民訴法のように、配当要求の効力が質権(差押質権を含む)等の担保権の存在を前提とせず、また差押(仮差押の執行を含む)が担保権の発生原因とはされない法制のもとでは、右の見解は根拠を欠き、当裁判所の採用しないところである。執行裁判所が、もともと配当要求債権者ではない者を配当要求債権者として取り扱つたとすれば、執行手続の違背として、執行方法異議(民訴五四四条)の方法、またはその裁判に対する即時抗告(民訴五五八条)の方法によつて不服を申し立てるべきである(もしこれをも配当異議の訴において主張しうるとすれば、本来執行裁判所が判断すべき事柄についての判断の当否を、同一審級の裁判所が審査する結果となつて、不合理である。実体法上の債権の存否の判断であれば、執行裁判所はもともと判断の権限を有せず、配当異議の訴の受訴裁判所の権限として、職務の分担がなされている場合であるから、かかる不合理は生じない)。

以上のとおりであるから、本件訴は不適法として却下し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(沖野威 上谷清 清田嘉一)

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